2012年5月20日日曜日

アンキ・ビラルとエキゾとモンドと



ビラルの「モンスターの眠り」の完全版が出ている。今バージョンはソフトカバーで270頁。前回分はうろ覚えだけどその内の70頁分くらいになるのかな。

原作に忠実なタイトルに戻されたのかも知れないが、他にも同名の有名コミックが出ているので、検索する時に少々厄介である。

いつも思うのだが、「同名異曲」や「同名異本」とかの「題名」を決定する時、なんか少しは捻ることはできなかったのかと・・・ (と言いつつ自分のBlogタイトルを検索してみる。ありゃりゃ・・・あとで少し変えるか・・・)


「エンキ・ビラル」は旧ユーゴスラヴィア出身のバンド・デシネ作家で、「ブレードランナー」にも影響を与えたと言われる。



バンカー・パレス・ホテル」「ティコ・ムーン」「ゴッドディーヴァ」等の監督でもある。その色彩感覚はいかにも東欧的で、BD「モンスター」ではユーゴ紛争をモチーフにメイン・キャラクター3人がユーゴ人、「ニコポル」ではイタリア東北部スロヴェニアと隣接するトリエステ出身(クロアチア等は旧イタリア領で第二次大戦中にはユーゴ軍によるイタリア市民の虐殺が行われた)のキャラクターが出ていたりする。
余談だが「トリエステ」はオーストリア・ハンガリー帝国の港町でもあり、ラテン、ドイツ、スラヴの文化が混じりあい、「スウェーデン」よりも金髪率が高いそうだ。

 「ブレードランナー」と言うと、「ヴァンゲリス」による音楽が有名であるが、彼は元ギリシャのプログレシヴ・ロックバンド「アフロディテス・チャイルド」のメンバーである。



「ギリシャ」はヨーロッパ文明の起源とのことで、西欧風の音楽を想像するかも知れないが、古代ギリシャの「オリンポス音階」は日本の「」の音階と同一であったり、現在はトルコの影響もあったりして、かなりエキゾチックに聞こえる。 (世界の音階については「響きの考古学」藤枝守著に詳しい。)

ちなみに、トルコのミュージシャンはオクターヴを等分したいわゆる「平均律」ではなく、独自にアラブ音階(?)にチューニングした楽器を使用することもあるとトルコ人から聞いたことがある。

で旧ユーゴ。現在はえーと。なんかいっぱいあるね。言語も微妙に違ったり、全然違ったりする。 こんちは「ドーベル・ダン」がスロヴェニアで「ドーバー・デン」がスロバキアだったかな。忘れた。スラブ系なので「Yes」はロシアと同じ「Da」だと思うんだー。えへ。ともかく、バルカン半島を貫く山脈の谷間の村々の結婚式で演奏されていた音楽は、10年くらい前に「ロマ=ジプシーのマーチングバンド」として有名になりつつあった。



アラブ風旋律の奇数拍子主体のエキゾチックな音楽と言うと「ダスコ・ゴイコビッチ」の「スインギン・マケドニア」が白眉。非アメリカ人による、「エキゾ・ジャズ」の元祖とでも言えばいいか。まあ、「エキゾ」とか「モンド」と言ってしまうと語弊があるか。「ワールド・ジャズ」?

日本でも「古谷充とザ・フレッシュメンのファンキー・ドライブ&民謡集」なんかも、ビ・バップな感じにアレンジされまくっていてカッコいい。


しかし、結構海外では有名になっていたにもかかわらずルーマニア国内ではジプシーは嫌われていたようだ。肝心のルーマニア音楽は入って来てなかったのにね。


同じころ、フランスではアルジェリア、北アフリカ中東系移民による「ライ」とか「グワナ」とかなアラブ風の音楽が盛り上がり(アラブ圏音楽の簡単なまとめ→✯Pirates Radio 印象派とかも。この人いいなぁ。

、「ブリジット・フォンテーヌ」が再始動「ラ・キャラヴァン」とかは車かなんかのCMに使われたので覚えてる人もいるかも。


デューク・エリントン」のダークで怪しいモンドな曲がこれまたワウワウ・ギターとシャナイかなんかのアラビックなフルートがエロティックなフォンテーヌのフランス語訳詩に絡むと言う超カッコよいアレンジがなされている。「ドクター・ジョン」も同時期同方向でカバーしているが、これはイマイチ。

ライ」と言えば、1994年の「リミティ」の「シディ・マンスール」がぶっ飛んでいる。メンバーがこれ。

✦Robert Fripp  (残念ながらちょうど時期が悪くてねぇ・・・メタルギターじゃない・・・)
✦Bruce Fowler (あの「ビーフハート」のだ)
✦Walter Fowler (お兄さんか弟かわからん。3兄弟だったかな・・)
✦Flea       (レッチリの。マキシマムザホルモンのBの人が好きなんだっけ?)
✦East Bay Ray (デッド・ケネディーズ。ごめん知らん)


もう、「キャプテン・ビーフハート」と「キング・クリムゾン」の夢の共演だけでおなかいっぱいって感じ。 でも、一番目立っていたのは「Bill Rhea」なるヴァイオリニストが3曲め「Ha Ray Ha」で「太陽と戦慄」の「デヴィッド・クロス」ばりに弾きまくってるとこだったりするが・・・




うわ。こんなの見つけた。未発売音源 「 Cheikha Rimitti Featuring Robert Fripp and Flea – Cheikha [Unreleased Tracks From The Sidi Mansour Album] 」 だって。

日本では「AOA」が人力フリージャジーなゴアトランスでやっぱりエキゾな音楽をやっていた。


フランスに戻って、やはりバルカン出身のジャズ・ミュージシャン「ボヤン・ズルフィカルパシチ」。「ゴイコビッチ」直系の変拍子たっぷりのダンサブルなジャズをやるかと思えば。全然違ってがっかりしたのを覚えている。 無論バルカンな香りのするジャズもやるけれども、控えめ。

モンスターの眠り」もそうだったんだけれども、主人公の出自である1993年サラエヴォの宗教対立も、ムスリムであるとか言うような記号もあまり本筋には関係なくて、もはや出自も伝統もよく分からなくなったごちゃごちゃしてはいるけれどオチのつかない結末になんとか軟着陸を試みているような。

もはやエキゾチシズムなんてものはないのかもしれない。



ちなみにタイトル「Xenophonia」は「Xenophobia」と掛けてあるんだそうだけど、外人である奏者の外人嫌いの音楽なのか、フランス人の外人嫌いを皮肉る音楽なのか。しかしパリなんてどこよりも移民ばっかりだよね。

フランスのフランス人によるフランスのポップ・カルチャーって何があるのだろ。

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