旧仮名遣い表記である為やゝ読み難く、
故に数年来ほっとらかしとなって居たが題名通りの興味深い内容であると思ふ。
まず、初代秋山吉五郎氏が「ひぶな」としたものは、検定交配の結果6%程度の開き尾が出現。金魚との雑種と確認された。残念。
ともあれ言いかえれば「朱文金」には「ヒブナ」でこそないものの、「マルブナ」の血が入っている可能性はないわけでもない。この「マルブナ」と言うのがなんなのかよく分からないのだが、「平鮒、丸鮒。又は金鮒、銀鮒」と言う記述からも「ギンブナ」と推測。3倍体じゃない系統なんだろうか。
ちなみに秋山吉五郎氏の「朱文金」作出の際、自由交配で2万尾の内14~15尾しか出現しなかったのだと言う。これってつまり「ギンブナ」が親として機能していなかったと言う説明にならないか?
松井氏の著書では最近のものほど情報が更新されていると思われるし、ダイジェスト版である「金魚」もサイズの割にはかなり詳細に書かれているが、やはり本書は別格。
保育社の「金魚」掲載の写真だとやはり「ギンブナ」っぽく見える。おそらくこれ自体も金魚との雑種と推測。顔が丸いのでナガブナ系ではなさそうだし、鱗の色がキンブナっぽくない。背鰭の軟条数も多いように見える。一応数えてみると16本か17本程度。
同書に「朱文金」の写真もあり、ちょっとヘラブナや北方系鮒っぽい体型をしているのが気にはなるのだが、おそらく片親の「キャリコ出目金」の体型からだと思う。
金魚と言っても品種によって体型がまったく異なるので、ショートボディのものなんかは骨自体が詰まっていたり、減っていたりしている例もありそうなので平均化するのに無理がありそうだが。
金魚の背鰭軟条数については
14本~15本がそれぞれ1%。16本が16%。17本が44%。18本が38%。
であるとのこと。
基本的には17~18本が殆んどであるようなので、一応「キンブナ・ナガブナ」か「キンギョ」かの簡易判断の基準にはなる・・・・と思ったのだが、松井氏の全国50数か所から採取したサンプルでは14~18本、17本が 最頻値 であるとか・・・なんだよ。区別できんじゃないか。
それもその筈、ギンブナ、キンブナ、ナガブナ等区別せずに統計を取っているようだ。
ちなみに諏訪湖で発見された天然産の「ひぶな」、山形県若林沼の「テツギョ」、朝鮮咸鏡北道鏡城公立小学校内の城ヶ池の「テツギョ」も「キンギョとの雑種」だろうと書かれている。
「魚取沼純系の鉄魚」
とのことだが、う~む。キンブナの変異体にしては背鰭が・・・
確証がないものは使えない・・
「金魚と日本人」の鈴木克美氏が著書で松井氏の意見について補足や訂正されていたのでちょっと誤解していたけど、かなり古い本にも関わらず科学的で冷静な判断をされていると思う。
なお2000年の「厚岸町教育委員会のヒブナ調査報告書」と言うA4サイズ17頁の冊子にはヒブナの写真があるのだが、背鰭の軟条数は不明。顔は小さくナガブナっぽくないが、キンブナ系ではあるかも知れない。山形のキンブナ系がこんな顔つきだったような気もしないでもない・・・。
「山形県産 キンブナ」
いややっぱし気のせいかも・・・。やっぱり鮒類の外見からの判別は無理*だよ。
とは言え、顔つきや色合いの違いが系統の違いと一致しないと言うのは、感覚的にどうも釈然としないのだが。
*論拠
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「日本産フナ属魚類(Carassius)の遺伝的実態と系統関係」 山本軍次・高田未来美・井口恵一朗・西田 睦 本論文 57(3): 215–222
日本主列島・中国・ロシアから採集したフナ属魚類(Carassius,以下フナ)のミトコンドリア DNA 調節領域前半部の塩基配列決定および核 DNA の AFLP 分析に基づき,日本産フナに現在提唱されているすべての種・亜種,すなわちゲンゴロウブナ(C. cuvieri),ナガブナ(C. auratus subsp. 1),キンブナ(C. a. subsp. 2),ニゴロブナ(C. a. grandoculis),オオキンブナ(C. a. buergeri),ギンブナ(C. a. langsdorfii)の遺伝的実態と系統関係を推定した.その結果,ミトコンドリア DNA の系統解析と核 DNA の系統解析からはほぼ同様の樹形が得られ,上記の種・亜種の中で,遺伝的・系統的に他と明瞭に区別できたのはゲンゴロウブナだけであった.
Carassius auratus では,いくつかの系統が確認されたものの,どの系統も 5 亜種とは対応しなかった.
Carassius auratus では,いくつかの系統が確認されたものの,どの系統も 5 亜種とは対応しなかった.
Carassius auratus の5亜種はどれも他から遺伝的に独立しておらず,互いに区別できなかった.
独立種として扱われることもある 3 倍体亜種のギンブナは,同所的な 2 倍体と多くのハプロタイプを共有し,異所的な 3 倍体よりも同所的な 2 倍体と近縁であった.ギンブナを含む日本産フナ類の系統関係は,従来考えられていたよりも,はるかに複雑なものであると考えられる.
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[補足:同ソースより抜粋]
(1) 世界に分布するフナ類は、ゲンゴロウブナ、ヨーロッパブナ、その他のいわゆるフナの 3 種に分けることができる。その内のいわゆるフナは、さらに 2 つの大系統から成る。
(2) 2 つの大系統の歴史は非常に古く(約 400 万年前に分化)、一方は日本列島に固有で他方は大陸・台湾・琉球列島に固有。前者はさらに 3 つの地域固有系統から成る。
(3) これら 3 つの地域固有系統は。日本に分布するといわれるキンブナ・ギンブナ・ナガブナ・ニゴロブナ・オオキンブナなどと呼ばれるグループとは対応関係がない。また、3 倍体性とも対応しない。
(4) キンギョは全て中国系統の一員。
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単性個体群である倍数性ギンブナの起源については不明な点が多いが,野生集団の アイソザイム解析やゲノム中の反復配列の解析から雑種起源である可能性や在来の2 倍性種のゲノムの関与が示唆されている。
筆者らは、日本各地で採集したギンブナについてその倍数性とアロザイムパターン を調べ、キンブナ、ゲンゴロウブナ、韓国産フナと比較した。AMY-2のバンドパター ンに関して2倍体はギンブナ、キンブナ、ゲンゴロウブナともA型であったのに対し、 AB型の個体はすべて3倍体であった。一方、中国産フナに由来する金魚や韓国産フナ はB型であった。また、東日本の倍数性ギンブナにはキンブナ由来のPGMの対立遺伝子 をもつことが明らかになった(19)。これらの結果は倍数性ギンブナが日本産フナと 大陸産フナの雑種起源である可能性を示唆するものであったが、倍数性ギンブナに特 異的な反復配列が日本産の2倍性フナや金魚には認められない(20)ことから、AMY-2 Bとこの反復配列をもつギンブナの一方の祖先種は未だ明らかになっていない。今後 、大陸産フナ類の広範囲に及ぶ遺伝子調査とギンブナ倍数性個体のゲノム構成の詳しい解析が待たれるところである。
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厚岸のヒブナは白とオレンジの混じったような薄い色であまり綺麗には見えず、「春採湖」のヒブナほど赤くないそうなので、金魚との雑種ではないかも知れない。だが、北海道のフナの例に漏れず3倍体以上のクローン系統である可能性は極めて高いと思われる。松井氏の研究でも「♀100に対して、♂13匹」としているので、少なくともサンプルの一部ではギンブナがほとんどであったようだ。
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